谷中の地域性と日本旅館のもてなしが結びつく。

旅館澤の屋の皆さん
ご主人の澤功さん(向かって右)、奥様のヨネ子さん、息子さんの新さん
Q:予約される方は、どのようにして、澤の屋さんを知られるのでしょうか。
以前に宿泊された方のお話で知り、お問い合わせ頂いたりしています。宿泊された方からの情報で、当方がB&B (Bed and Breakfast)であり、夕食は近くでというのもご存知ですね。過剰なサービスをさせて頂くのではなくて、お客様ご自身で買い物をしたり、夕食を摂られたり、洗濯をされたり、出掛けられたりという自由さ、気楽さが良いところもあります。
Q:廊下に設置されているアイロンが面白いですね。
館内のコインランドリーは重宝されていますが、以前アイロンを使いたいとの要望があり、部屋でアイロンを使われるのは、少し心配だなと思ってたところ、以前に宿泊しましたフィンランドのホテルで、廊下にアイロン台が置かれているのを見ました。これは良い方法だと思い、早速設けました。アイロンを掛けながら、窓からは隣の家の瓦屋根や遠くの風景が見えて、評判も良いようです。洗濯をされた方は、屋上に設置した物干し台に掛けられますが、屋上からは谷中の家並みや遠くには上野公園や東京藝術大学等も見えますから、この風景も興味深いようです。
Q:谷中の風景はずいぶん変わりましたか。
寛永寺さんや近くの玉林寺さんは400年程の歴史があるとの事ですから、寺町としての谷中もその程度の歴史があるのではないかと思いますが、近在のお店等も2代目、3代目の方が継がれていますから、それ程大きくは変わってはいないと思います。昭和47年(1972)に都電が無くなりましたので、こちらまで来られる方の足が無くなりました。最近では上野駅界隈のビジネスホテル等が近いものですから、こちらまで足を延ばされてというのも少なくなりました。そのような要因もあり、町の風景は大きくは変わっていないのかもしれませんね。(右上段に続く)
Q:宿泊に際して文化や慣習の違いでの困った事はありませんでしたか。
風呂や和式のトイレの使い方が分からないという方もおられますから、貼り紙をしたりしていますが、英文の説明もお客様に少し修正して頂いたりして、今に至っています。私も家内と二人だけで20ヶ国程、旅して、各地を見学させて頂いたなかで、慣習の違いで困る事もありました。そういった経験からも、文化や慣習の違いはある程度は受け入れるべきではないかと思っています。私どもの宿にも、いつも6ヶ国、7ヶ国の方が宿泊されますので、それぞれの国の文化も習慣の違いも感じられますし、イスラムの方は浴室でお祈りをされるという事もありますね。そのような事を受け入れる事も必要ではないかと思います。
Q:これからのホテルや旅館は、どのように変わっていくのでしょうか。
東京では2000円から3000円の安価に宿泊する事が出来る宿泊所や長期滞在のシェアハウスに、ビジネスホテルや私どもの所、そして大規模なホテル等と多様な形の宿泊の方法がありますので、観光やビジネスで来られる方も、選択肢が増えているのではないかと思います。私どもの旅館にいらっしゃる海外のお客様の旅行日数は平均で22泊、そのうち日本滞在日数は15泊です。澤の屋での宿泊は平均は4泊です。2007年の国土交通省の統計では、日本の方の観光での宿泊日数は平均で1.6泊で2泊にも満たないとの事です。海外からのお客様が日本全国を旅行されれば、滞在日数は大幅に増える事と思います。観光立国としては、団体のお客様だけでなくて、このような多様なお客様や旅行を受け入れて、国内外のお客様が日本全国を旅し易い環境を整えなければならないのではないかと思います。