2014年9月15日掲載 / 2019年12月1日更新
2014年9月15日掲載 / 2019年12月1日更新

不易流行の銘に、伝統工芸の変わらぬ伝承の心がうかがえます。 


いつまでも変わらない伝統を守る不易の心、そして伝統に根差しながらも時代の変化を柔軟に取り込んでいく流行の思いが、江戸下町伝統工芸館の銘となっています。

2階展示室について

台東区伝統工芸振興会会長の田中義弘さんに、館内をご案内頂きました。


江戸木版画(長尾 雄司・次朗)
 これは木版画ですが、お兄さんの雄司さんが摺られていて、次男の次朗さんが彫っています。また、お姉さんも彫られていますね。
 

錫器(中村 圭一)
 これは錫器ですね。錫は融点が低いんです。ですから割と柔らかい。落とすと変形してしまいます。これは叩き出したものではなくて、削り出しの技法です。錫器の需要は名古屋辺りが多いのですが、東京での需要は銀器が主ですね。
 錫自体の価格は、銀に比べてそれほど高くはありません。錫の利点は、冷たいものは結構長く冷たく保ちますし、温かいものも長く保ちます。このような金属の製品で金や銀の器は、一般の方は細工よりも重さで比較してしまいますが、本来は彫りなどの細工や薄く作る事の方が難しいのです。
 

銅器(星野 保)
 

銅器(星野 保)
 これは、叩き出しの技術です。銅は殺菌力が高く、熱の伝導率が良いのです。価格もそれほど高くはありません。
 

木工細工・神輿(種谷 吉次)
 

木工細工(種谷 吉次)
 これらは木工細工で、主に製作されているのは神輿などですが、これは奈良薬師寺の東塔の縮小模型です。
 

神仏具錺(かざり)(川島 利之)
 これは、錺(かざり)金具です。家具などの調度に限らず、浅草では神輿金具製造が多いですね。また神具や仏具にも多く用いられています。
 

金銀砂子(すなご)細工(田部井 稔)
 これは砂子細工ですね。本来は、襖の柄などに金銀などの砂子で描いていたのですが、次第に需要が無くなってしまいましたので、最近では壁掛けなども製作されています。
 

彫金(野沢 忠義)
 

東京銀器(泉 健一郎)
 最近では、彫金のブレスレット(バングル)なども製作されていますね。蒔絵や彫金の手箱などは昔からあるのですが、現代に合わせて、このようなデザインも手掛けられています。 (右段に続く)

東京銀器(河内 巌)
 

看板彫刻(左:大久保 光博、右:坂井 智雄)
 

看板彫刻(坂井 保之)
 これは、木彫看板です。最近では、看板もプラスチックなどになってしまいましたが、坂井さんはずっと木彫をされています。今ではずいぶんと重宝されて、表札製作なども手掛けられています。
 下の写真は、手彫りの木彫作品ですね。近年ではコンピュータや工作機械が使われるようになって、ひとつの基があれば幾つも出来るようになり、今では台湾や海外に製造拠点が移りつつあります。それに伴って、本来の手彫りの木彫の良さを見抜く人も少なくなりました。
 

江戸指物(木村 正)
 

江戸すだれ(田中 耕太朗)、江戸指物・手鏡セット(木村 正)、三味線箱・桑駒入れ小箱(中西 正夫)
 

江戸指物(木村 正)
 近年では、生活様式も洋式に変わってしまいましたので、このような箪笥がおける部屋も少なくなりました。そうすると、需要が無くなってしまいます。元来は寸法も決まっていましたが、最近では注文に合わせて製造するようにもなりました。やはり現代に合わせて変わらないといけませんね。三角形のコーナーに合わせてだとか、隅の形に合わせて製造するようにもなっていますね。指物でも、椚(くぬぎ)、桑、杉とそれぞれの得意分野があり、また需要もありましたが、今では需要も少ないと、何でも手掛けなければならなくなりました。
 

江戸木目込人形(菊地 之夫)
 こちらは人形ですが、浅草には人形の大手の問屋も多くありますから、その周辺には、頭を作る人、被服を作る人、足を作る人とそれぞれ分業が出来ています。五月人形や三月の節句の人形なども、ひとつのセットが15組程で構成されていて、毎年これらが製造されています。
 

江戸べっ甲(赤塚 顕)
 

江戸べっ甲(磯貝 實・克実)
 ワシントン条約以降、鼈甲(べっこう)の使用が難しくなりました。眼鏡などは、やはりべっ甲細工の製品が本当は良いですね。眼鏡は掛けていると落ちてきますが、べっ甲だとそれがないですね。
 

東京組紐(川勝 新市)
 帯締めは、江戸時代後期に普及しました。歌舞伎役者が帯の上から締めた組紐(くみひも)の流行から始まったとも言われています。平たく組む「平組」、丸く紐状に組む「丸組」、杉の葉が並んだように組んだ八ツ組み紐を芯にした「角組」などを基本とした多様な表現があります。

いつまでも変わらない伝統を守る不易の心、そして伝統に根差しながらも時代の変化を柔軟に取り込んでいく流行の思いが、江戸下町伝統工芸館の銘となっています。