2009年11月1日掲載
2009年11月1日掲載

正岡子規との深い親交と友情がありました。


台東区立書道博物館本館(東京都指定史跡)
 

在りし日の書道博物館本館と庭園

Q.書の分野では、会派などに所属していたのですか。

鍋島: 不折は、仲間同士で書の研究会を作って展覧会に出品するなど、同好会的な活動はしていましたが、特に会派には拘っていませんでした。「書はあくまで余技」と言っていただけあって、所属には拘らず好きにやっていたようです。当時の様々な会派の展覧会に、収蔵品を貸し出して書の名品展を併催するなどのアレンジをしています。書の研究会としては河東碧梧桐らと龍眠会という書のサロンのようなものを結成しました。彼らは好きな事を書き、やりたい事をやるというスタンスでやっていたと思います。

Q.書の蒐集だけでなく、自身も書いていたのですか。漢詩も自ら創作していたのですか。

鍋島: 書も沢山書いていますね。漢詩もいくつか創作していますが、書の作品の題材となったのは、やはり唐代の漢詩などですね。有名どころの題材を書いて作品にする一方、中国の古典、たとえば拓本を臨書して作品にしています。歴代の名品を真似て書くというような事もしています。(下段に続く)
 


在りし日の書道博物館入口
関東大震災にも揺るがなかったと言われる本館は、今も変わらず、その面影を残しています。

 
Q.書道博物館の所蔵品は膨大な量ですが、これらをどのようにして集めたのですか。

鍋島: 昭和初期頃のコレクターとか住友などの財閥が支援していたり、実業家であったり、財界の人たちが趣味で集めるのが主な蒐集の方法でした。不折は貧しくて決して贅沢はしない一介の書家、画家に過ぎなかったので、自分の作品を売ることで収蔵品を蒐集し、博物館建設にも充てました。書や日本画なども沢山書いていますが、それは展覧会に出品するためではなくて、売るためであるというのが主たる目的です。生活のために大量に書いていたと思います。作品を制作する原動力は、蒐集にあったのかもしれません。

Q.根岸に住まいを構えた何か経緯があるのですか。

鍋島: 不折が初めて根岸に住んだのは、明治31年(1898)です。翌32年(1899)には中根岸に画室を新築し、その画室開きの祝賀会に、子規が病をおして参加しています。子規の妹の律が荷車に子規を乗せ、それをひいてお祝いにきたと、不折の夫人が日記に書いています。不折が根岸の地に住んだのは、やはり子規がいたからでしょう。(右段に続く) 

子規自身はずっと現在の子規庵のある場所に住んでいましたから、不折が中根岸に居た頃も歩いていける程の大変近い距離でした。不折は、根岸の中でも幾度か引っ越しをしています。現在の場所に落ち着いたのは大正4年(1915)でした。この時、すでに子規は他界していましたが、斜向かいに住むあたりに、不折の子規に対する思いの深さが感じられますね。

Q.書道博物館が開かれたのは昭和11年(1936)ですか。

鍋島: はい、そうです。不折が明治28年(1895)に日清戦争へ行った際、中国の文物を目の当たりしてその魅力にとりつかれ、それからずっと途切れる事なく生涯蒐集し続けました。それらの収蔵品を保存すべく、まず昭和8年(1933)に金石館と命名した施設を建てました。自分の研究の為というのはもちろんありますが、公開して世に還元したいという思いも不折にあり、さらに周囲からの勧めもあって、昭和11年(1936)に、財団法人書道博物館として開館しました。
  
Q.台東区に移管された時期はいつ頃ですか。現在の中村不折記念館の建物は新しく建てられたのですか。

鍋島: 平成7年(1995)12月に移管されました。中村不折のお孫さんにあたる三代目の館長さん(中村初子さん)が台東区へ建物と収蔵品を全て寄贈されました。区立として開館するために建物の安全性や車椅子の通路幅の確保などを整備し、平成12年(2000)まで準備して同年4月に台東区立書道博物館として開館しました。中村不折記念館は新たな展示スペースを確保するために、区立としてオープンする際に新たに建てられたものです。一方で、本館は東京都の史跡に指定されているため、ほとんど手を加えることが出来ませんでした。もし改修するのであれば原状復帰が大原則で、色を塗るのにも当初の色のに戻す必要があります。ですから冷暖房も新たに設置できないことになるのですが、それではお客様に観覧としての条件が整いませんので設置しました。その他の敷地内建物としては、不折が生きていた頃には大きな木造の邸宅がありましたが、昭和20年(1945)4月の大空襲で博物館だけを残して全焼しました。収蔵品は博物館にありましたので残りましたが、邸宅にあった中村家に関する資料はほとんど無くなりました。(次ページに続く)
 


所蔵品を前にした中村不折

台東区立書道博物館本館(東京都指定史跡)
 

在りし日の書道博物館本館と庭園