2010年2月1日掲載
2010年2月1日掲載

文化財の大敵は、小さな虫や黴(かび)でした。

東洋館地下での燻蒸作業

神庭: ここは東洋館の地下です。東洋館の地下は元は展示場でしたが、平成館がオープンしました以降は、仮収蔵庫として永らく利用してきました。平成21年(2009)6月に東洋館の全館を閉じて、平成23年(2011)まで耐震工事を行うことになりました。そのため、東洋館にある収蔵品を全て館外へ移す作業をしております。他の場所に作品を移動する際、それも大量に移動する際に、万が一虫やカビが一緒に移動して移動先を汚染する可能性がないように、移動する前に薫蒸して、それから次の場所へ移しています。こちらは、環境の保存、保全を担当しています保存修復課の荒木さんです。

荒木: ここでは東洋館の収蔵品に燻蒸作業を行っています。これは燻蒸用のテントで、今回は二酸化炭素を用いてガス燻蒸を行っています。順次、作品をテントに収めまして、テントのフィルムを熱で圧着しまして完全に密閉した状態にします。炭酸ガスをこの中に入れながら、中の空気を上から抜いていきます。そうすることによって、炭酸ガスが作品の内側まで浸透することで、虫や卵まで殺すことができます。炭酸ガスを約60%から70%程の濃度で維持して約二週間程置きます。二酸化炭素による燻蒸は、ここ数年来一般的になった方法です。それ以前は、臭化メチル、酸化エチレンというような非常に毒性の高い薬剤を用いた燻蒸が一般的でした。ところが、臭化メチルはオゾン層破壊物質ということにモントリオール議定書で規定され、先進国では全廃ということになりましたために、燻蒸剤としては使用することができません。それに代わるものとして、より環境負荷の低いものとして、二酸化炭素燻蒸というもの使用されるようになりました。本来は、できる限り薬剤を使った燻蒸というものは避けて、虫やカビを減らしていくというのが理想的な姿です。そのためにはこまめな点検や清掃、処置を日頃から気をつけていかなければなりません。ですが、今回は大きな引越しですので、その際に虫が紛れ込むとも限らないので燻蒸しています。
 
Q:どんな種類の虫がいるのですか。

神庭: 木材のセルロースと羊毛などのたんぱく質に多くの虫が付きますね。羊毛には、衣蛾(イガ)という虫が付きます。種類はいくつもありますけれども、当館で害虫が大量発生したと事例は、最近では紙魚(シミ silver fish)という紙を食べる虫です。非常に危険な虫なので、様々なクリーニングや燻蒸、チェックを計画的にして数を減らしているところです。
 


東洋館

 


燻蒸中の所蔵品

X線写場


荒木: こちらは資料館の地下にございますX線を使って文化財を調査するX線写場、通常放射線射場と呼んでいる所です。こちらのコンピュータがコントローラーで、X線を発生させてデータを合成したり保存します。またX線で撮った画像を処理することができます。実際にX線を発生する装置は、管球と呼んでいます。この下にX線を受けるディテクター、フラットパネルディテクターと言います。かつてはここにフィルムを置いていましたけれども、デジタル化の波が来まして、現在ではデジタル処理をしています。この管球とディテクターの間に文化財を寝かせます。X線を当てますと、文化財を通過したX線がパネルに到達します。そのX線は厚さや材質によって通る強さが変わってきますので、黒いところと白いところができます。二、三週間後には、考古の鉄剣とか考古遺物の検査を予定しています。金属遺物は錆(さび)で覆われていますから、刀剣ですと錆びの内側にどれだけ刀の形が残っているか否か、象嵌や金象嵌、銀象嵌などが隠れている場合があります。それがX線で見えます。また、文字だったりすると大発見です。古墳時代のものでは、王賜銘鉄剣、東大寺山金象嵌太刀、江田船山の太刀などの大発見がありますけども、いずれもX線等でそういうものが浮かび上がってきていますね。今回の調査でそういうことがあるかどうかはまだ判りませんが、そういうことも一つの成果として考えられます。また、絵画なども撮影します。長尺のものもスライドしながら撮影できます。(下段に続く)

 

X線透過装置

 


X線制抑装置

 
Q:以前は、よくいわゆる超音波で調べるというようなものがありましたけども、最近はレントゲン撮影が主ですか。

神庭: 最近では、最もポピュラーな装置だと思います。比較的短時間に沢山の情報が得やすい分析装置だと思います。より高性能なものは他にもあると思いますが、スポット的なことは判りますが、その他の場所のことは分からないというものです。一回のレントゲンで、決して高レベルの分析ではないかもしれませんが、全体像を掴むには非常に適した分析方法だと思います。

Q:長尺のものでは、どの程度まで可能ですか。レントゲンによる損傷や影響は少ないのですか。

荒木: 6曲一双の屏風の二扇が入る程度ですね。管球を自動に動かしてコンピュータで合成をして、一枚の大きなX線画像にすることができます。影響は、このレベルですと何度もやるわけではありませんので、ほとんどないと思います。(次ページに続く)


X線写場

X線写場